Y9802(W2783)

脇指 銘 備州長船経家 文明六年二月日 附)黒蝋色塗鞘脇指拵

古刀 室町時代中期 (文明六年/1474) 備前
刃長 54.2cm 反り 1.7cm 元幅 27.9mm 先幅 17.8mm 元厚 7.2mm

特別保存刀剣鑑定書

附)黒蝋色塗鞘脇指拵

 

剣形:鎬造り、庵棟。身幅尋常に腰反りに先反りを加え、重ね厚く平肉ついた強靭な打刀(刀身拡大写真
彫物:佩表には角留の棒樋、裏には丸留二筋樋の彫物がある。
鍛肌:小杢目肌よくつんで地沸つき、地景入り乱れ映りたつ。
刃文:小沸出来の焼刃高い丁子乱れは処々逆がかり、小互の目・小丁子を交えて華やかに乱れる。刃中は匂い充満し葉浮かび、刃縁に砂流しかかり明るい。
帽子:乱れ込んで中丸に返る。
茎:生ぶ、目釘孔二個で派上がり栗尻に結ぶ。勝手下がりの鑢目、棟小肉つく。佩表の鎬地には『備州長船経家』、裏には『文明六年二月日』の年紀がある。

 『備州長船経家』の入念作。始祖は鎌倉時代、正応頃年間(1288~1292)頃の畠田守家の子と伝え、二代目は南北朝時代の小反り系光久の子と伝える。
実見する年紀作は室町時代初期以降で、応永二年紀にはじまり、主活躍期は永享頃(1429~)の三代、続いて宝徳から長享(1449~88)にかけての年紀作を四代、文明頃(1469~)の五代、以降永正頃(~1504)までの同銘数代がある。
 応永・永享頃の経家は盛光、康光、家助らと共に、福岡一文字や長船派の光忠、長光等の鎌倉期の名工に倣う作刀を遺し、前田家伝来の加賀大聖寺家伝来の二字銘『経家』太刀(重要美術品)は一文字派に倣った丁子乱れを呈しており、北口本宮冨士浅間神社所蔵の『備州長船経家 文安二年二月日』(1445)の太刀(重要文化財)は直刃調に小乱れで青江に淑した作風を示すなど優品の数々を遺している。

 この脇指は重ね厚く先反りを加えて片手での操作性を追求した造り込み。乱れ映りが立つ良く詰んだ小杢目の清涼な地鉄に丁子刃を配する地刃の様相は古作一文字を観る如くである。文明六年の裏年紀が刻された入念作は550年におよぶ茎の錆味優れ、今なお鏨枕の立つ明瞭に遺された刻銘を保持する経家の優作である。

 菊花づくしの金具で装われた附帯の拵は高位の武士の装いを今に伝えている。
附)黒蝋色塗鞘脇指拵拵全体写真 /刀装具拡大写真
  • 総金具(縁頭・鯉口・口金具・栗形・鐺): 波に菊花図、赤銅地、高彫、金色絵、無銘
  • 鐔: 波に菊花図、赤銅地、高彫、金色絵、無銘
  • 目貫:軍配図、赤銅、容彫、色絵
  • 柄:白鮫着、黒色常組糸諸撮菱巻
銀着一重はばき、白鞘付属
参考文献:
長船町『長船町史』大塚工藝社、平成十年十月三十一日