F94521(T5529)

短刀 銘 筑州山王住宗謹作 為岡本順博氏 孫早織誕生記念守護刀也 平成三年十一月二十七日 附)朱漆塗向揚羽蝶紋蒔絵合口短刀拵

現代刀 平成三年 (1991) 福岡県
刃長25.0cm 無反り 元幅22.3mm 元重5.7mm

特別保存刀剣鑑定書
共箱
附)朱漆塗向揚羽蝶紋蒔絵合口短刀拵


 

剣形:平造、庵棟、無反りの短刀。元先の重ね厚くつきふくら豊かに張る端正な姿。(刀身拡大写真
彫物:表には梅樹、裏には護摩箸の彫物がある。
鍛肌:小板目肌よく錬れて詰み、地沸厚くついて美しく明るく冴える。
刃文:小沸出来の広直刃。刃中匂い深く、締まりごころの刃縁には小沸が微塵に厚くついて強くひらめく閃光を放つ。
帽子:焼刃広く直ぐに中丸に返る。
茎:生ぶ、目釘孔一個。鑢目は大筋違い、栗尻に結ぶ。、棟小肉ついて此所にも大筋違の鑢目がある。指表の刃側には『筑州山王住宗謹作』の長銘、棟寄りには『為岡本順博氏』の為銘。裏には『早織誕生記念守護刀也』の切付および『平成三年十一月二十七日』の年紀が刻されている。

 『宗勉』は昭和2年(1927)5月1日生、名を宗勝という。昭和21年(1946)、19才で父『宗弘』に師事し、昭和三十年(1955)より出品を始めた新作名刀展では同三十二年の第三回『作刀技術発表会』にて入選。以降は奨励賞一回、努力賞六回、入選四回の入賞を重ねて平成二年7月3日(1990)に栄誉ある『無鑑査刀匠』に認定された。
同工は相州伝の作品のみならず、後年は山城伝や『津田越前守助広』創始の濤乱刃に範を採った作品がある。長いキャリアと数多くの受賞歴を誇る現代の名匠である。平成27年(2015)歿、享年88。

 特別な需により精鍛されたこの短刀は、重ね厚くふくら豊かに端整な姿で、地鉄鍛えは小板目に小杢目を交えて練り鍛えられて摘み、小粒の地沸が微塵について地景が縦横に織りなす精美かつ瑞々しい。端正な直刃は淡雪状の刃沸が刃縁に厚く積もり輝き、刃中は深く匂いが充満する。地に根付いた若梅樹は陽光を浴びて華を咲かせて天に向かい新芽を吹かせている。不動明王の化身とされる護摩箸は邪を払う。端正豊かな山城伝を念頭に於きながら御守刀に想いをこめた風雅の彫物は観る者を魅了する。同工六十四歳、円熟期の技量を遺憾なく発揮して刃味優れた『無鑑査刀匠』に認定後の優作である。

附)向揚羽蝶紋蒔絵朱漆塗合口拵(拵全体写真 各部拡大写真
  • 縁頭/鯉口/栗形:角所 黒漆塗
  • 飾目釘 : 銀地 丸に剣方喰紋
金着せ二重はばき、白鞘付属、共箱付

備考: 宗一家の技は『宗勉』の長男『宗昌親』に受け継がれて親子二代ともに無鑑査刀工に認定
『宗昌親』(本名:正敏)は昭和33年(1958)生。九州大学工学部冶金学科卒業後に日立金属に入社。玉鋼の生産に必須の冶金やきんの研究開発に携わり、昭和58年(1983)に父・宗勉の門弟となり作刀技術の修行を積み重ね平成2年(1990)に独立。同年に開催された新作名刀展では初出品にして優秀賞を受賞、以降高松宮賞などの特賞を多数獲得して平成十八年2月23日(2006)に無鑑査の認定を受けている。

参考資料:大野 正 『現代刀工銘鑑』 工芸出版、昭和46年