角形薄手の隅に切り込みを設けた木瓜形の鐔。格子文は当時の衣紋から意匠されたものであろうか。僅かに中高の肉置きのこの『十格子透鐔』は地鍛頗る良く、格子の繋ぎ確りとした造り込みには強みが感じられる。耳には鉄骨が明瞭に現われ、格子の施されていない鎚目地の八格子四角にはセンスキ状の鑢目がある。甲冑師鐔にも通じる鉄味に、丸く幅広の朴訥な櫃孔の古雅な造形から室町時代中期まで時代の上がる感がある。
正阿弥は刀剣の本阿弥、能楽の世阿弥、絵画の能阿弥と列んで金工家として足利将軍家に仕えた権威のある家柄。後藤家、梅忠家と共に金工界の三代派の一角として確固たる地歩を築いておおよそ五百年の永きにわたって伝統を守り江戸時代各城下町で栄えた一門。桃山時代以前の作品を古正阿弥と称して特に賞美されている。
室町時代