S62745(Y1528)

大身槍 銘 遠江国小栗基重 彫同作 平成三年二月吉日

名物『日本号(ひのもとのごう)』写

現代刀 (平成三年/1991) 静岡県
穂長 50.8cm 茎長 40.9cm 総長 91.7cm 元幅 23.4mm 塩首幅18.1mm

『日本刀の匠たち』出陳・所載品

剣形:平三角造、直大身槍。六角塩首。『享保名物帳』記載の『日本号』約1/2縮尺の写し(刀身拡大写真
彫物:裏平地の幅広い樋内には真の倶利伽羅の彫物がある。
鍛肌:小板目鍛の地鉄は微塵に詰んで総体柾がかり、地沸が緻密について鉄色冴える。
刃紋:沸出来の広直刃。刃縁に金筋・砂流し入り小沸よく付いて明るく冴える。
鋩子:直ぐに焼詰め。
中心:茎生ぶ、目釘孔一個。化粧に大筋違いの鑢目。茎尻は栗尻に結ぶ。表の塩首下方、目釘孔上には『遠江国小栗基重 彫同作』の長銘、裏には『平成三年二月吉日』の年紀がある。

 小栗基重師は昭和二十八年静岡県周智郡の生まれ、名を辰巳という。昭和五十一年(1976)に、人間国宝の二代:月山貞一刀匠の兄弟子にあたる喜多貞弘に就いて鍛刀を修め、同五十八年(1983)には岡山県重要無形文化財で無鑑査の柳村仙寿に師事し刀身彫刻を学び、同年に作刀承認して独立した。
 平成元年(1989)に新作名刀展に初出陳以降、刀剣の部で入選十五回の栄誉更には刀身彫刻の部で九回の入選などの数多くの受賞歴を誇る現代日本刀の匠である。

 表題の穂長50.8cm(一尺六寸七分七厘)の大身槍は、天下三名槍のひとつ名物『日本号(ひのもとのごう)』※写しとして制作された。
平地の広い樋中には、同氏による半年にも及んで刻された真の倶利伽羅龍が浮き彫りにされている。龍の額は生気に満ち、筋肉に力が漲り、爪は鋭利、力強くも最も美しい名槍であることを象徴している。
 菅ケ谷正弘師による研ぎが施され、米倉秀一師の白鞘と白銀師、布袋長一によるはばきが附されている。基重師の独自性が加味され二年間に及ぶ制作期間を経て完成された畢生の大作で、『佐野美術館』および『備前長船刀剣博物館』にて開催された企画展示会『日本刀の匠たち』私の最高傑作に出陳、図録掲載された同工の傑出した作品である。
山銅地金着はばき、上製白鞘入り
 ※名物大身槍『日本号』は天下三名槍のひとつに列せられ、大和国(現在の奈良県)金房派の作と云われる。「御物」として禁裏の品として門外不出とされ、その美しさから「正三位」の位を賜るという快挙を遂げた唯一無二の名槍として周知されている。『日本号』は禁裏の正親町天皇より室町幕府十五代将軍『足利義昭』に下賜されたのちに織田信長、豊臣秀吉、福島正則、母里友信(もりとものぶ)の所持となり、大正年間に黒田家に献上された、とりわけ酒豪の母里友信が福島正則からこの槍を手に入れた逸話が有名で『呑取りの槍』、『黒田節の槍』の異名がある。現在は福岡市博物館所蔵。
参考文献:
『日本刀の匠たち』展示会図録、佐野美術館、平成二十一年九月五日