K29279(W1802)

小脇指 銘 備前国長船住祐永 文政七年八月日

新々刀 江戸時代後期(文政七年・1824) 備前
刃長 32.4cm 反り 0.6cm 元幅 30.7mm 元重 8.7mm

特別保存刀剣鑑定書

附)黒蝋色塗鞘小さ刀拵



 

剣形:平造り、庵棟。身幅広く元先の重ね厚くついてふくら張り、先反りつく。(刀身拡大写真
鍛肌:板目肌詰んで棟寄り流れごころ。地沸が厚くつき、鍛肌に呼応した精緻な地景が肌目を縫うように表出する潤いある地鉄。
刃紋:区下より長く焼きだし大きく五つに湾れて、菊花丁子を交えて丁子足長くはいり、刃中匂充満して霞立ち明るく澄む。
中心:生ぶ。鑢目は切、茎尻は刃上がり栗尻。目釘孔一個。棟肉平に大筋違の鑢目がある。掃表棟側に小振りの長銘『備前国長船住祐永』裏には『文政七年八月日』の制作年紀がある。
帽子:表裏ともに物打ちふくらに沿って直調となり、裏には水玉状の飛び焼き、表には湯走りかかる。先中丸となり返り深く焼き下げる。

 新々刀期の上作鍛冶として名高い備前長船祐永は名を『横山覚之助』、横山祐平の次男として寛政六年(1794)に生まれた。兄の祐盛が後七兵衛祐定の養子となったため、父『祐平』の名跡を継ぎ備前藩工を勤めた。友成五十六代孫と称し天保四年に加賀介を受領。十六葉『菊紋』および『一』文字を茎に切ることを許された。嘉永四年六月二日没行年五十七歳。
 表題の脇指は祐永三十五歳の壮年作。元先の重ね頗る厚くつき先反りがつき、物打辺りに張りのある豪壮頑健な体躯。地金は板目肌精緻に鍛えられて地沸微塵につく。区下から始まる長い焼き出しからはじまる刃文は、五つにうねる抑揚ある波濤を大らかに繋いで菊花足長丁子を交えた独創的な焼刃。物打ち辺りはふくらに沿って直ぐ調となり此所に水玉状の飛び焼きを配して僅かに湯走りかかる躍動溢れる構成。刃縁には粒の揃った小沸が微塵に積もり、刃中深い匂を深く敷いて明るく冴えた刃中には丁子の長い足が刃先に向かって放射する。精緻な地鉄と抑揚ある刃文が高位に調和した逸品。

附)黒蝋色塗鞘小さ刀拵(全体写真・/刀装具拡大写真
  • 縁頭:庭木剪定束図、赤銅地、鋤彫、金色絵、無銘
  • 鐔:無文、山銅磨地、赤銅覆輪、両櫃孔、無銘
  • 目貫:仙人図、赤銅容彫、金色絵
  • 小柄・笄:葵紋三双図、赤銅魚子地、高彫、裏哺金、金色絵、無銘
  • 柄:白鮫着、生成色細糸組み上げ菱巻
時代山銅はばき、白鞘付属
参考資料 : 本間薫山・石井昌國 『日本刀銘鑑』 昭和五十年