A38534(T8582)

黒蝋色塗時雨文沈金紅葉影蒔絵鞘短刀拵 附)短刀 生ぶ茎無銘 阿州祐芳

新々刀 江戸時代最末期(慶応頃/1865~) 阿波
刃長 25.0cm 無反り 元幅 24.0mm 元重 7.8mm

黒蝋色塗時雨文沈金紅葉影蒔絵鞘短刀拵

特別保存刀装具鑑定書

附)短刀 生ぶ茎無銘 阿州祐芳

保存刀剣鑑定書

剣形:冠落し造、三ツ棟、ほぼ無反りの短刀。尋常な身幅に比して元重ね頗る厚くつき、上部の棟肉を削いでフクラ枯れごころの刺突に適した体躯(刀身拡大写真)。
彫物:表裏にはばき元で掻き流しの棒樋の彫物がある。
鍛肌:小板目よく詰んで総体柾がかり、地沸付いて地景細やかに入る。
刃文:小沸出来の中直刃は小乱れを交えて刃縁には砂流しを交えて処々叢づいて匂口が明るい。
帽子:先掃きかけて小丸になり返り深く焼き下げる。
中心:生ぶ茎無銘。目くぎ穴一個。鑢目は切り、棟肉は平となり同じく切りの鑢目がある。
 天下泰平の江戸時代、短刀拵は技巧を凝らした刀装具や漆工芸、蒔絵細工の超絶技巧と意匠の造形表現は美的に昇華していった。
 黒蝋色塗鞘の表裏には金糸を沈めてを象嵌し、晩秋の時雨に霞む紅葉の意匠を影蒔絵の手法で施したた洒落た風情。舶来物で高価な唐木である鉄刀木の柄は濃褐色の肌合いを呈して重厚な趣きを放ち、丸龍図の金小縁筒金付目貫を配して宝珠の金無垢目釘を掴み地に繁栄と幸福をもたらす縁起のよい意匠。
 総金具は漆黒の赤銅地に金・銀・山銅の平象嵌で精緻に描写され見事な仕上がり。『瓢箪から駒』の成句から夢が実現する意の肉置き豊かな赤銅磨地の瓢箪は栗形・裏瓦・返角に配されて、二所物(小柄・割笄)は同磨地の瓢箪花に唐草模様。縁頭・鐺は同皺革地に同図の意匠を配している。
 黒蝋色塗時雨文沈金紅葉影蒔絵鞘短刀拵拵全体写真拵表拡大写真拵裏拡大写真
 附けたり冠落し造の短刀は南北朝期の大和物、とりわけ仁王辺りの短刀に念頭に於いたのであろう。造り込みの重ねは頗る厚く三ツ棟に仕立て、刀身の中程から棟肉を削いだ鋭利な造り込み。地鉄は総体柾がかる鍛肌に流れる地景が顕れて、直の刃文は匂口締まり明るく冴え、刃縁には小沸が処々叢づいて帽子掃きかける大和色が観取できる。。
 阿波国祐芳は横山祐永門で初銘『祐吉』と名乗る。俗名は『吉川六郎』という。慶応年間の年紀作があり、『阿州吉川六郎源祐芳』などと銘を刻する。
 内外完存のお守り短刀は高禄の武家もしくは豪商の旧蔵であろう。雅趣に冨み供する者の繁栄と安泰を祈る意匠を凝らした精緻な日本の伝統美を今日まで受け継ぐ稀有な作例である。
金着せ一重はばき、金着せ切羽。白鞘付属
参考文献:本閒順治・石井昌國『日本刀銘鑑』雄山閣 昭和50年