A73790(S8913)

刀 無銘 古三原

古刀 南北朝時代 (貞治頃/1362~) 備後
刃長72.6cm 反り2.4cm 元幅31.1mm 先幅20.4mm 元重7.0mm

特別保存刀剣鑑定書

 

 

剣形:鎬造り、庵棟。大磨上無銘ながらも尚寸延びて身幅広く、鎬地に比して平地の広い造り込みで鎬筋が高い。元先の幅差はさまに開かず、反りが深く付いて中峰延びる。(刀身拡大写真
地鉄:総体に板目に杢目肌が緻密に詰んで、刃寄りに流れごころの柾ごころを交え総体に肌目がたつ。微塵な地沸で覆われて淡く沸映りが立つ。細やかな網目状の地景が明瞭に顕れて肌目に潤いがある。
刃紋:中直刃仕立ての刃縁には明るい小沸が微塵に厚く積もり小乱れを交え、うちのけ、二重刃、ほつれなどの大和色を明示している。
帽子:表裏とも掃き掛け・二重刃を伴って小丸に返る。
茎:大磨上無銘。茎尻は切。鑢目は僅かに勝手下がり。目釘孔二個、茎尻には半月状の目釘穴跡がある。

 備後国の『古三原』に極められた優刀。古三原とは備後国(現、広島県東部)三原の刀工で、鎌倉時代末期の正中(1324~)頃に興った始祖正家と、その子正広をいう。以降室町時代末期に至るまで繁栄した。同派のうち、鎌倉末期から南北朝期にかけてのものを『古三原』と称している。同国は良質の鉄を産したことで名高い。この地方には中央大社寺の荘園が多く、三原派の作風には大和気質が窺われるのもこうした畿内との交流によるものと推察される。
 この刀は身幅が広めで元先の幅差がわずかについた豪壮な体躯をしており、反りが深くついて中鋒が延びごころとなる南北朝時代の勇壮な姿形が反映されており風格がある。鍛えは板目肌に杢目を交えて淡く白け映りを魅せる。刃縁の匂口はやや締まりごころに明るい小沸が微塵に積もり、処々にほつれ刃や食違い刃をみせている。帽子には二重刃が看取され、これらの様相には大和伝・とりわけ手掻派の影響を窺わせる。
 上質の鋼を採った鍛練による板目・杢目状に織り成されて鉄色潤い、神妙なる焼き入れによる地沸を敷いて深淵より湧き出す地景を伴って頗る明るい。小沸が厚く積もった明るい刃縁を挟んで刃先に放射する妖艶な匂いは深く充満している。これら地刃の繊細で古雅な様相は大乱れによって惑わされることのない端整な魅力であり同派極めの優品である。
金着せ太刀はばき、白鞘入り